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札幌高等裁判所 昭和25年(う)329号 判決

控訴人 被告人 寺田美与吉

弁護人 泉功 外一名

検察官 小松不二雄関与

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役三月及び罰金二万円に処する。

但し本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

右罰金を完納できないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押収に係る釧路地方検察庁昭和二十五年領第一一七号(東京地方検察庁昭和二十四年(押)第五四五二三号)小豆二六四、五瓩、ウズラ豆四五、五瓩の換価保管金一万九百九十二円七銭は之を没収する。

原審及び当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人の控訴趣意は別紙のとおりである

第一点

本件「ウズラ豆」は地方により種々の名称を以て呼ばれるが植物学上「いんげん」の一種であることは明白な事実であり、「いんげん」が食糧管理法に所謂主要食糧に相当することは、昭和二十四年六月二十五日農林省告示第百三十八号第七号中「いんげん」の記載あるにより明かな事実である。従つて原判決には所論の如き違法はなく論旨は理由がない

第二点

本件記録に現われた諸般の事情を参酌考量すると原審が原判示事実を認定し被告人に懲役三月の実刑及び罰金二万円を科したのは量刑不当と考えられる論旨は理由があるから原判決は破棄を免れない尚職権を以て原判決を調査すると原判決には小豆及ウズラ豆(いんげん)を主要食糧に指定した昭和二十四年六月二十五日農林省告示第百三十八号第七号を適用しない違法があつて被告人の本件所為が刑事責任を負うべきものか否かを決する根拠を求むるに由なく右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから原判決は此の点においても亦破棄を免れない

よつて刑事訴訟法第三百九十七条により原判決を破棄し同法第四百条但書により更に判決する

原判決の確定した事実を法律に照すと被告人の判示所為は食糧管理法第九条同法施行令第十一条同法施行規則第二十九条同法第三十一条昭和二十四年六月二十五日農林省告示第百三十八号第七号罰金等臨時措置法第二条に該当するが犯情により食糧管理法第三十四条を適用し被告人に対し懲役及び罰金を併科し所定刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役三月及び罰金二万円に処し、但し情状により刑法第二十五条を適用し本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予し右罰金を完納できないときは刑法第十八条により金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し押収に係る釧路地方裁判所昭和二十四年領第一一七号(東京地方検察庁昭和二十四年押第五四五二三号)保管金一万九百九十二円七銭は本件犯行の組成物件たる小豆二六四、五瓩ウズラ豆四五、五瓩の換価代金であつて被告人以外の者に属しないから刑法第十九条第一項第一号第二項によりこれを没収することとし原審及当審の訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項により其の全部を被告人の負担とし主文のとおり判決する

(裁判長判事 黒田俊一 判事 猪股薫 判事 鈴木進)

弁護人泉功同上田保の控訴趣意

第一点原判決には、理由を附さないか、又は理由にくいちがいがある。原判決は、この理由中事実摘示において「被告人は法定の除外事由がないのに拘らず昭和二十四年十一月十一日主要食糧である………ウズラ豆(いんげん、ささげ類)四五、五瓩を箱詰にして自宅から釧路市入舟町運送業者三輪運輸株式会社釧路出張所に持ち行き同出張所小荷物係員に対し東京都港区芝浦福島組まで海上輸送の委託をし(該品は仕向地に到着)たものである。」と判示している。そこで食糧管理法関係法令を検討するに、主要食糧の中にはウズラ豆という品名は全くないし、果してウズラ豆がいんげん又はささげ類に属するものなりや否やに付いては、原判決挙示の証拠及び原審で取り調べた証拠等を綜合検討するも何等認むべきものがない。結局、原判決は、本件ウズラ豆がいんげん又はささげ類に属するものであるかどうかについて審理探究するところなく、漫然前記判示の如く認定したのは、明かに冐頭掲記のような違法があつて破棄を免れないと信ずる。

第二点原審における刑の量定は不当である。

原審訴訟記録及び取り調べた証拠を通覧すると、

(一) 被告人は二十八才の前途有為の青年で、昭和二十二年にシベリヤから復員してその後本籍地で農業の手伝をしていたが、職を求めて釧路市に出て露店商を営んでいる者であつて、前科はなく、又従来本件以外には警察署や検察庁で取り調べを受けたことがないこと(記録十五丁十六丁参照)

(二) 被告人は主要食糧についても本件が最初であつて、本件の場合も東京にいる兄の許に遊びに行く積りで持つて行つたものであるが(記録第十五丁参照)現品は東京都において発見領置されたため、いささかの利得もしていないこと

(三) 被告人は心から悔悟していて、改悛の情明かなこと

等が看取されるし、被告人の行為は決して常習、惡質のものではなく、食糧事情が漸次好転しつつある現状、その他諸般の情状を綜合すると、被告人に対しては極めて軽い量刑をもつて臨むべきであるのに拘らず、原審においては事ここに出でずして被告人を懲役三月及び罰金二万円に処し且つ没収を併科するが如きは明かに刑の量定重きに過ぐるものと思料する。

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